日本画とは何か? | ||||||
。、属性からのアプローチ〈日本美術の特徴〉日本画をその特徴(属性)から思いつくままに挙げてみると、 あ、輪郭線の線描や筆遣いに造形的な価値を認める。 い、色は比較的単純で平面的に処理を行うために、装飾性が高い。 う、陰影や空間意識が希薄。 え、切り取られた画面、つまりタブローの意識が弱い。絵巻や屏風、襖絵、扇面など生活空間の中で、自然に存在している。 いくつかこれらの特徴を挙げていると、実はこれらの特徴は西洋画と比較した上で述べられていることに気がつきます。つまり、西洋美術が何なのか?それが目指して来たものが何なのかを理解する事で、逆照射されて日本画の性質あるいは、日本の美術の特徴があぶり出されてくるのではないかと推論できる訳です。 ただし、ここでは広義の日本画の特徴について述べたいと思います。広義の日本画とは、古代から現代まで日本で描かれた絵画全般を指します。そして、狭義の日本画は日本画という言葉が生まれた明治以降の日本画を指します。その両面について、共通点と相違点を述べていきたいと思いますが、まずは、西洋美術と比較した上で、広義の日本絵画、あるいは広義の日本美術の特徴を考えていきたいと思います。そして、狭義の日本画の特徴、あるいは狭義の日本画が広義の日本美術とどの点で違っているか、あるいは失ったものは何か? について、第「章、「歴史的からのアプローチ」の所で、述べる事にします。 〈西洋美術とリアリズム〉「西洋美術とは?あるいは西洋の芸術が目指して来たものは何か?」 まず、結論から述べると、「リアリズムへの指向」という言葉に集約されるのではないかと思われます。 では足早に西洋の美術をおさらいしてみましょう。西洋におけるリアリズムの歴史はラスコーやアルタミラの壁画において、狩猟民族が獲物の姿を壁画として描写したところから始まります。呪術的な意味合いが強かったと思われますが、それにしても、その動物たちは生き生きと動き出しそうな躍動感に包まれています。彼らが感じたままの動物たちを再現し表現しようとした事は明らかです。 また、ギリシャ時代の彫刻像のリアルさには驚かされます。ヘルメス像やミロのビーナス像など、これらの像が2000年も前に理想的でありなおかつ現実的に造形されていたということは、日本がまだ縄文時代だったことを考え合わせるとさらに驚きです。リアリズムが発展しなかった時代がその次の中世という時代です。この時代は、外界の正確な描写や自然、人体の再現が目的とされなかったというより、軽視された時代でした。それは、つまり神の存在の前に美術そのものがあまり大きな意味をもたなかっただけではなく、視覚を喜ばせる快楽として否定されたからです。中世はヨーロッパ美術史における、リアリズム停滞期と呼ばれる時代です、 リアリズム彫刻の最盛期がギリシャであったとするならば、絵画のリアリズムはルネッサンス期に迎えたというべきでしょう。ファンアイク兄弟によって透視図法が確立され、ダビンチによる空気遠近法、あるいは陰影法などの技術の確立で、目で見た3次元の世界を平面上にリアルに描くことが完成され、なおかつ芸術的にも頂点を迎えたのがこの時期です。ダビンチ、ミケランジェロ、ラファエロ、デューラー、など。その後の絵画におけるバロック時代、ロココ時代と近代までリアリズムのうねりは続きます。 そして、さらなる技術革新によって、より高度なリアリズムの成果が生まれます。写真と映画です。絵画は描く人間の精神や技術の有無によってリアリズムが担保されていますが、より客観的に、誰でもが、正確に外界を写し取る事ができるようになったことは、リアリズムを飛躍的に進化させました。写真から動く像へ。さらには、外界を写し取るだけではなく、画面上にリアルな像をコンピュータグラフィックスで作る事ができるようになり、さらに、二次元から三次元へとホログラフィーなどの技術革新によってさらに高度に発展してゆく事でしょう。それらは、一貫して「よりリアルなものへ」という指向が生み出した技術革新なのです。 〈近代自我の確立と美術のリアリズム〉 ここで補足しなければならないのは、写真が生まれた18世紀以降、「外界をそっくりそのまま写し取る」という役割を写真に譲った絵画は、その後どのような方向に進んでいったのか?という疑問なのですが、日本画と関係ないような気がしますが、後々繋がっていきますので、少しお話したいと思います。 〈日本美術とリアリズムの歴史〉次は日本の美術の歴史を見ていきましょう。西洋美術の進化過程とだいぶ違っています。 いかに物に即して外界を正確に再現するかというリアリズムを軸に歩んだ歴史を持つ西洋に比べて、日本は、それらの系譜として捉えられる人達はどちらかというと少数派でした。ざっと、日本のリアリズムの歴史を辿って、思い当たる人物、流派を挙げるとすると 鎌倉の彫刻、定慶、運慶ら慶派と呼ばれる仏師の作品群、(リアリズムの頂点と称される「無著、世親像」や「金剛力士像」の筋肉のつき方などは、解剖学上正確に再現されていることが知られています。)やはり鎌倉時代の肖像画群。(神護寺所蔵で長い間、源頼朝の肖像画と伝えられて来た肖像画など、これをリアリズムと捉えるのは賛否あるかと思いますが。)江戸の奇想の画家若冲、(これだけ対象を克明になおかつ執拗に捉えて描いた例は日本美術にはあまりないと思われます。)それに円山応挙ら円山派(円山応挙は写生の大切さを説き、「気韻生動なども、写生を徹底して行えば、自然に身に付くようになる。」と、述べています。)その後は江戸末期から明治期にかけての西洋リアリズムに影響を受けた画家、谷文晁や司馬江漢、高橋由一、岸田劉生、速水御舟らになってしまいます。 〈日本美術と非リアリズムの歴史〉逆に非リアリズムの美術としては、縄文、弥生の土器から始まって、高松塚古墳の壁画、埴輪(中国の兵馬俑と比較すると、技術の差というよりも目指した方向性の違い感じます。中国のそれがリアリズムで造形されているのに比較して、日本の埴輪は牧歌的でカワイイ系と言えるかもしれません。)、飛鳥、天平の仏像彫刻(東大寺戒壇院の四天王像や興福寺の阿修羅像など、天平彫刻をリアリズムとして捉える研究もありますが、どちらかというと表現のユニークさ、独自性を特徴とすべきではないかと思います。)、天平の工芸、平安末期から鎌倉へかけての源氏物語、鳥獣人物戯画、信貴山縁起、平治物語等の絵巻物、(これらの絵巻物は日本の絵画史の頂点と言っても過言ではないかと思いますが、その物語のおもしろさ、顔や体の表情など表現力の豊かさに特筆すべき点があります。)室町の周文、雪舟ら水墨画家たち、(水墨画も中国からの輸入ですが、北宋の水墨画家、李成、范寛、郭煕におけるリアリズムと比較すると、形式的、図案的、情緒的なところが特徴です。ただ、雪舟の後期の天橋立図などに、中国の模倣に終わらない、日本の自然を見て描いた、ある種のリアリズムが見て取れるかもしれません。)桃山に入ると狩野永徳、山楽、長谷川等伯ら障壁画(障壁画であるために、豪華絢爛、装飾的であることが一義的に求められました。)さらに洛中洛外図、俵屋宗達、尾形光琳ら江戸琳派、(これらは日本の絵画史の中でも突出して平面性、装飾性に特徴があると言えます。)江戸の奇想の画家、曽我蕭白、伊藤若冲、長沢芦雪、(狩野派の規範に則って描かれた障壁画の様式化が進み、形骸化してゆく中で、彼らの作風は個性的で夢想的でした。ただ、中で、若冲はリアリズムか非リアリズムかと諸説ありますが、これは対象に迫ろうとした点においては、まさしくリアリズムの画家ですが、結果とし生まれて来た画風は奇想という言葉が示す通り、リアリズムを通り越して幻想的、個性的な作品になっていると言えるでしょう。)浮世絵の写楽、歌麿、北斎、広重、(日本の絵画として、西洋絵画に大きな影響を及ぼしたのが、彼らの浮世絵でした。これについては後筆しますが、やはりリアリズムというよりは平面性を全面に打ち出して捉えた大首絵の表現は独自性に特徴があるでしょう。)文人画家の池大雅、与謝蕪村、(彼らも手段としては水墨画を選びましたが、描かれた世界観としては、心象風景というのに近いかもしれません。)円空、木喰らの彫刻、(荒々しい彫り跡が心の仏像と言えるかもしれません。)明治期の日本画家横山大観、菱田春草(高い精神性を目指しました。)、文人画の富岡鉄斎と、圧倒的に非リアリズムの画家たちに軍配が上がるのではないでしょうか。 〈日本美術の海外からの評価の前提〉 さて、日本美術全体の特徴を捉える時に、特筆すべき時代、流派をとらえるとするとどの辺になるか、これにはさまざまな意見があります。例えば、法隆寺宝物、東大寺と天平彫刻、興福寺と鎌倉彫刻。桃山の障壁画。江戸琳派。どれも固有の日本文化であり、日本を代表する美術である事には相違ないのですが、ここではあえて、自国の美術史観から一度離れて、海外、外部から見た日本美術の特徴はどこか考えてみる事にします。なぜかというと、西洋の美術を日本人つまり外部から評価するのであれば、日本の美術もあえて、外部から評価しないと、その公平性が保てないと思うからです。自己評価というのは、他人からの評価と比べて甘くなるだけではなく、視点そのものに偏りがあるため、客観性が保てないおそれがあります。外部の評価にさらされて、初めて日本の美術の特徴が自虐あるいは皇国史観的日本美術評価から抜け出せ、明らかになるのではないかと思います。 <日本美術の海外からの評価> さて、その上で、日本の美術が海外に評価された、評価を受けたのはいつの時代のどの美術かというと、これは結構、難しい問題ではないでしょうか。日本美術史は、外国からの影響と言えば、かなりの紙面を割いて、中国、朝鮮、あるいはヨーロッパの影響がどの時期にどのようにあったかについて述べられていますが、外国への影響というと、かなり少なくなってしまいます。それだけ、日本は東方の辺境地として、文化の吹きだまりの位置に長らくあったために、海外から質量ともに圧倒的に輸入超過であったかもしれません。あるいは、第二次世界大戦後、日本の誇大妄想史観に対する反省からか、日本文化を自慢する風潮を自粛する気分なども影響しているかもしれません。それとも、私自身の勉強不足なだけかもしれません。 その上で、いくつか思いつくのは、ブルーノ・タウトによって絶賛された「桂離宮」であるとか、明治の初め、外国人教師フェノロサによって扉を開けられ、一般の人々の前に姿を現した秘仏、白鳳彫刻である「救世観音」。(これなどは外国人であったため、あるいは、外国からの圧力をひしひしと感じていた時代だったからこそ、実現できた行為だったのではないかと考えられます。評価というには少し違うかもしれませんが、外国の力によって仏像が信仰の対象から、鑑賞の対象になった大きな出来事だったのではないかと思います。)あるいは、現代のアメリカのコレクターによって収集された若冲ら江戸の奇想の画家たち。などですが、影響力の大きさをいうならば次の3つになるのではないかと思います。 一つ目は室町から桃山にかけて中国朝鮮ヨーロッパなどに輸出された屏風絵、二つ目は江戸の浮世絵と陶磁器。三つ目が現代の映画、アニメーションとデザイン。 1、 室町から桃山期の屏風絵まず、室町から桃山にかけて、かなりの数の屏風絵、扇面などが海外に渡ったとされています。明や朝鮮への贈答品として、あるいは国際マーケットにおける主力商品であったということです。また、中国朝鮮に留まらず、ポルトガルやスペインとの交易品としても、かの地で珍重されていたそうです。そのことは、ビオブという言葉がポルトガル語になっていることを考えるとその影響の大きさが伺い知る事ができます。また、屏風絵は江戸末期にも国どうしの進物としても朝鮮や欧米列強へも贈られたようです。これら日本の屏風絵の特徴としては、日本にとって文化的な宗主国であった中国の美術が「真」を描く事を求めたのに対して、日本の絵画は「装飾的な美」を求めていたことにあります。それが、物足りなさと同時に家の装飾品として珍重されたと言えるのではないでしょうか。 2、江戸の浮世絵と陶磁器 これについては二つの時期が挙げられます。一つは17世紀のオランダ東インド会社の手によって、数百万点の中国、日本の陶磁器が西欧にもたらされた時期。陶磁器は「チャイナ」と呼ばれ、その純白の磁器は憧れを持って受け入れられました。そのうちのどれくらいが日本の陶磁器であったかは定かではありませんが、有田の柿右衛門のコピーがマイセン窯で多く作られている事などを考えると与えた影響は大きかったと言えるでしょう。 また、もう一つの時期は1859年日本が欧米各国と通商を開始してからの時期です。この時期にやはり大量の浮世絵や工芸品がヨーロッパに輸出され、ジャポニスム(日本ブーム)が沸き起こったのです。この辺は最近の研究の結果が明らかにされてきていますが、例えば北斎漫画がエミール・ガレなどの陶磁器やガラスの図柄として用いられています。また、ロートレックの構図に広重の絵の構図が用いられたり、水平線はそれまで、画面の下半分に入れるのが常識でしたが、それを上方に入れるなど、日本の絵画の大胆な構図などが多く取り入れられたりしています。また、ゴッホやモネ、マネなどは直接の画題の中に浮世絵や日本の着物やセンスを描き込んだりしています。これらは写真が普及した時期と重なって、絵画自身が方向転換を強いられていたため、それに呼応する形で日本の美術の平面性、装飾性などの多様な発想に刺激を受けて、外界を描くリアリズムから、心のリアリズム、あるいは抽象絵画へと変革する大きな刺激を与えたのではないかと推測できます。このあたりは、日本の影響を過大に評価することは避けたいと思いますが、これからの研究が進めばより明らかになって来ると思われます。 これらの特徴としては、一つは「装飾品としての美術」あるいは「用の美」ということと、浮世絵に描かれた人物や風景の「平面的な造形のおもしろさ、強さ」にも特徴があります。それは、西洋絵画が外界を写し取るリアリズムを発展させたために、平面上の立体感、(空間)が重用視されたのに対して、純粋に「平面上の造形のおもしろさ、強さ」を目指したと言えるかと思います。先に挙げた印象派への影響などは、これが大きく作用したと言えるでしょう。 3、現代のアニメーションとデザイン 三つ目は、現代のアニメーション、デザインです。現代は戦前と比べて、グローバル化が進み海外への露出度が高くなっているため、海外で取り扱われる事が、一概に評価に繋がるのかという指摘もありますが、影響力の大きいことは確かです。 以上3つの時期の、それぞれの美術の海外での評価を辿ってきましたが、まとめると、その3点から見える日本の美術の特徴は以下の5つになるかと思います。 その上で、海外から見た日本美術の評価とは別に、国内での評価というより、私自身がとらえた日本美術の良さも少しだけとりあげておきたいと思います。 <日本画の海外での評価> | ||||||
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