「どんこ」

今年の夏は、毎日のように、子供をつれて魚とりに出かけた。

愛媛の僕の実家の近くには、子供が、魚をとりに行くのにちょうど良い大きさ、深さの川が流れていて、

歩いても5分ぐらいと子供をつれていかない手はないという程の立地条件だ。

魚を釣る人は、多いと思うが、僕のは、原始的な手づかみである。

最初は、もちろん子供を遊ばせるためにいっているが、

そのうち夢中になってくると、子供はそっちのけで、魚しか眼に入らなくなってくる。

毎日、オケラか、とれても10cmほどのハヤや、ヤマメが1.2尾であるが、それでも、全然退屈しない。

ある日、石の下に手を突っ込んだら、ぬるりとした手触りがあった。胴回りが、6.7cm位はありそうだ。

やってみると分かるが、川で、石の下に手を入れるのは、結構勇気がいる。と、思っている。

何がいるかわからないからである。

一瞬、嫌な予感が頭を過ったが、放すわけには行かない。

その、生き物を石に押し付けたまま石ごと川から引き上げた。「どんこ」だった。

久しぶりに眼にした大物の「どんこ」である。12cmくらいだろうか。

早速、「どんこ」とヤマメをバケツに入れて意気揚々と凱旋した。

しばらく、水槽で飼っていたが、ある日、ヤマメがいないのに気がついた。

不審に思い、「どんこ」を見ているうちにあることに気がついた。腹が膨れているように見える。

しばらく眺めていたが、そうかどうか確かめようと、「どんこ」を手で握ったところ、

ボッと吐き出した。哀れ丸呑みされたヤマメである。

ほぼ自分の体に近い大きさのヤマメを一呑みしていたのだ。

何日か後、ハヤを水槽に入れる時に、前回の失敗を防ぐためにも

まん中に柵を入れたのだが、いつの間にかハヤの水槽に潜り込んでいた。

そして、ハヤも哀れ食われてしまった。

しょうがないので、「どんこ」は水槽から出すことにした。

バケツにいれておいたところ、翌朝、死んでいた。

どう猛な「どんこ」の、あっけない死であった。

田舎から帰る日の朝、残りのオイカワや、川海老は川に返すことにした。

今年の夏の思い出である。

(ちなみに、僕達は小さいころから、「どんこ」と言い習わしていたが、正式には、「かじか」が正しいそうです。)

2000年9月7日

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